「カツラが産んだ照れくさい男同士の友情物語」

「ちょっとアタッチメントが馬鹿になっちゃってさぁ」

品出しでクソ忙しい最中、バックヤードの入り口付近で話しかけてきたおっさんは、しゃがんで頭をこちらに向け、ヅラをパカパカさせた。「あっ。そうなんすね~・・・」とその場で具合を見てやろうとも思ったが、さすがに他の客もいるのでバックヤードに入れてやった。最初から管轄外なのはわかっているが

「ちょっとアタッチメ「うちじゃ無理っすね!!!」ではあまりにもかわいそうなので、脂ぎった禿げ頭とギトギトのヅラをパカパカさせたあと「買った店に聞いてみるしかないすかねぇ・・」と伝えた。「どっかに名前書いてっかな?」とガッツリとカツラを外したおっさんを目の前にして「これどういう状況やねん」と心の中でツッコむ新入社員の僕は、おっさんが満足するまで立ちすくむしかなかったのある。しょうがない、ここはホームセンターだ。あいにくヅラは置いていない。

 

 

 

「言ってくれなきゃわからない。言葉にしなきゃ伝わらない」と女性はよく言うのだが、そんなものは床屋のシャンプーでも性感マッサージでも簡単には言えないもので、そこを要求するところをみると、察するという感覚が乏しいのではないかと思う。そんなことを言うと、また「女性軽視だ!蔑視だ!ハラスメントだ!」と角を立てたくなる気持ちはわからんでもないが、落ち着いて聞いてほしい。男性は恥ずかしいんだ。そして、女性に対して「わかってくれている」という希望とも取れかねない信頼がある。わかっておくれ。なんでも言葉で垂れ流すラッパーじゃないんだ。でかいTシャツも似合わないし、常に肩は揺らせない(ウンコ我慢してるときくらいだ)。

言葉にしないことが良いことだってある。笑顔で伝わる感情があるではないか。強く抱きしめることで伝わる感情があるではないか。

 

 

 

数日後、閉店間際に発注業務をしていると客の気配を感じた。「いらっしゃいま・・・」と顔を向けると、少し離れた通路にヅラの件のおっさんが立っていた。新しいヅラを被ったおっさんは、親指立てて笑っていた。それに眉毛を上げて僕が返す。言葉はいらない。友情が芽生えた二人の男に言葉はいらないのだ。だからっておっさんを強く抱きしめたりしないことくらい、女性のみなさんはわかってください(信頼)。

 

 

 

 

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