「眠りが産んだ摩訶不思議な愛情物語」
こうやって毎日ブログの更新が再開されたところをみると、仕事が一段落したのかポケモンGOに飽きたのか。
さて、疲れてないと夢を見るもので、そんなときに寝ぼけ眼の僕に髭面のフロイト爺は言う。
「夢の素材は記憶から引き出されているんだ。意識的にではなく、無意識的にね。一見すると乱雑な内容でも、無意識に基づいた統合性が備わっており、さまざまな出来事を一つの物語として連結させるものなんだ。夢とは潜在的な願望を充足させるものであり、無意識による自己表現なんだよ」
「怖い話を再検証するコーナー」に出てくる地元の友人、K。彼は脳腫瘍を患い入院した。幸い悪性ではなかったため、腫瘍部分を切除して手術は無事成功したのだが、翌日からの入院生活で異変が起きる。毎朝の検温時に今日の日付を聞かれるのだが、それがいつしか全く正解しなくなった。脳をいじっているから有り得る話ではあるし、だからこそ検査の一環として看護師もそういう質問するのだろう。その日から自分の感覚とはズレた毎日が始まった。
毎日のリハビリを頑張れたのは、迷惑をかけている職場にいち早く復帰するためであり、両親や結婚を控えた彼女も心配しているからである。しかし一向に退院はできず、彼は定年の歳を迎えてしまう。会社から訪れた役員は「お世話になったKさんとまた仕事がしたかった」と最後まで復帰を望んでいた。Kも「迷惑ばかりかけて恩返しできずに終わってしまった」と頭を下げた。
病床で年老いていく毎日に絶望を感じ、それでも普通の日常を望むKにまた朝がやってきた。看護師が質問する。「今日は何月何日ですか?」
Kが答える。「〇月〇日です」
「正解です~。検温しますね~」
初めて正解したのである。自分の見る映像が光り輝いて、違う世界にきたような感覚の中、鏡を覗きこむと30歳の自分がそこにいた。
夢の中で50年間過ごしたKは、その後にリハビリを経て退院し、僕にこう言った。
「あの50年は長かったよ。毎日の献立だって憶えてるし、リハビリのメニューだって憶えてるよ。親も死んで見舞いだって誰も来なくなるしさぁ。今の状況に感謝だよ、まったく。こうして外を歩けるなんて思ってなかったよ」
夢の中で望んでいた普通の日常を、フロイトの迷宮から生還し、現実の世界でやっと手に入れたKは、本当に嬉しそうだった。
そして、夢の中でも献身的に看病してくれた彼女と、翌年の2月に結婚した。